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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)550号 判決 1967年9月25日

原告 鈴木明

右訴訟代理人弁護士 荒木孝壬

同 広野光俊

被告 岩沼ふく

<ほか一名>

主文

被告らは原告に対し、各自六二七万三、三三四円およびうち五三五万四、一六七円に対する昭和四二年一月二五日から、うち九一万九、一六七円に対する昭和四一年一二月二日から各完済までの年五分の割合による金員を支払わなければならない。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は第一、第三項に限り、仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告らは各自原告に対し六七七万〇、四〇〇円およびうち五八二万九、四〇〇円に対する昭和四二年一月二五日から、うち九四万一、〇〇〇円に対する昭和四一年一二月二日から各完済までの年五分の割合による金員を支払わなければならない。訴訟費用は被告らの各自負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、被告らは共謀のうえ、被告岩波ふくが訴外株式会社海老屋総本舗振出名義の別紙手形目録記載の(一)ないし(七)の各約束手形を偽造し、これを正当に振出された手形であるように装って被告遠藤金司が原告に割引を依頼し、原告は右の割引依頼によりこれらの手形がいずれも正当に振出されたものと信じて別紙割引一覧表記載のとおり割引をなし割引金を被告らに交付した。

原告は前記各手形のうち同目録記載(三)、(四)および(六)の各手形について市中の金融機関で割引を受けたが、これが偽造手形で不渡となったために前記割引一覧表記載のとおりこれを買戻し、その買戻代金を支払った。

原告は前記(一)、(二)、(五)および(七)の各手形を割引きその割引金を交付したことにより割引金相当額の損害を蒙り、また、前記(三)、(四)および(六)の各手形について買戻代金を支払ったことによりその代金相当額の損害を蒙ったが、原告の蒙ったこれらの合計六七七万〇、四〇〇円の損害は被告らの不法行為によって生じたものである。

二、よって被告らに対し、右損害六七七万〇、四〇〇円の各自賠償およびこれに対する各訴状送達日の翌日(前記(一)ないし(六)の手形割引による損害合計五八二万九、四〇〇円については昭和四二年一月二五日、前記(七)の手形割引による損害九四万一、〇〇〇円については昭和四一年一二月二日)から完済までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

陳述したものと看做された被告ら提出の答弁書によれば「被告らが共謀のうえで原告主張の各手形を偽造した事実を認め、その余の請求原因事実を否認する。」という記載がある。

≪証拠関係省略≫

理由

一、被告らが共謀のうえで訴外株式会社海老屋総本舗振出名義の原告主張の各手形を偽造した事実は当事者間に争いがない。

二、しかして、原告本人尋問の結果によれば、原告は被告遠藤金司の意を受けた訴外遠藤金弥またはその母からの依頼により前記各手形をいずれも原告主張のとおり善意で割引き、その割引金として、それぞれ手形金額から多くとも月二分五厘の割合による割引料を差し引いた残額を交付した事実が認められる。

ところで割引料算定の期間については、原告が前記各手形を割引いた日が何時であるか明らかでない(原告本人尋問の結果には前記各手形の割引日が原告主張の日であるかのような供述があるが、その供述内容は記憶に基くものであるというのであって二年以上前の手形割引日について逐一正確な記憶を保っているかどうか疑いがありたやすく信用できないし、ほかにその日を明らかにする資料はない。)ので、原告に不利益に考察すれば前記各手形の振出日付として記載された日の翌日から満期までの月二分五厘の割合による金額(その計算は別紙計算書のとおり。)が割引料として差し引かれたものとみられ、少くとも前記各手形金額からこの割引料を差し引いた残額が割引金として交付されたものと解して差し仕えない。

そうだとすると別紙計算書のとおり、原告は少くとも前記(一)ないし(六)の手形割引金として合計五三五万四一六七円、(七)の手形割引金として九一万九、一六七円、総計六二七万三、三三四円を交付したものと認められる。

原告は右認定の金額以上に割引金を交付したと主張し、原告本人尋問の結果にはこれにそう供述があるが、この原告本人尋問の結果がたやすく信用できないことは前記同様であり、ほかに、右認定の金額以上に割引金が交付された事実を認めるのに足りる証拠はない。

三、そうだとすると、原告が前記各手形を割引き、その割引金として、右認定の金額を交付したことにより同額の損害を蒙ったわけであり、この損害は前記各手形を共謀のうえ偽造し、これを真正な手形と偽って原告のもとで割引を受けた被告らの共同の不法行為によって生じたものであることが明らかであるから、被告らは原告に対し、各自その賠償をなすべき義務がある。

四、原告は前記手形のうち(三)、(四)および(六)の手形について市中の金融機関で再割引を受けたところ、手形が不渡となったために買戻を余儀なくされ、その買戻金として自己が割引金として交付した金額以上の金額を支払ったので買戻のために要した金額全部が被告らの不法行為による損害であると主張しているけれども割引依頼人が割引手形を買い戻す場合に自己が受領した割引金額ないしは手形金額以上の金額の支払をしなければならないのは、受領した割引金を利用したことによる対価をも加算して支払わなければならないからであって、それはもっぱら割引契約の約定自体に原因する事柄に属し手形偽造という不法行為には何の関係もないことである。このことは、偽造手形の場合に止まらず、正当に振出された手形を他で割引いた者が何らかの理由により手形を買戻す場合にも約定に従って割引金額ないしは手形金額以上の買戻代金を支払わなければならないことを考えてみても明らかであろう。

したがって、原告が前記(三)、(四)および(六)の各手形について原告主張の買戻代金を支払ったとしてもそれは前記被告らの不法行為とは何の関係もないものであり、不法行為によって生じた損害であるということはできない。

五、以上のとおりであって、原告の請求は被告らに対し前記三で認定した損害の各自賠償およびこれに対する訴状送達日の翌日(記録によれば、前記(一)ないし(六)の手形割引による損害五三五万四、一六七円については昭和四二年一月二五日前記(七)の手形割引によるそれ九一万九、一六七円については昭和四一年一二月二日である。)から完済までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し原告勝訴の部分について仮執行宣言を附するのを相当と認め民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畔上英治 裁判官 伊藤豊治 大見鈴次)

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